2000年10月某日

 運動会。今年も親子とも完全燃焼してきました。ああ年のせいかな、ちょっと走っただけで
筋肉痛だわ〜。情けない。それに比べ、子供たちは羽が生えているかのように、小学校の
広いグランドを走り回る。疲れもするんだろうけれど、それ以上に表情が生き生きしている。

 今年はとくに親として感慨深い運動会だった。将が年長組、保育園最後の運動会だったからだ。
年長組といえば、運動会の華、主役だ。入場行進のプラカード持ちから始まり、準備体操の
お手本、飛び箱・鉄棒・側転・なわとびの障害物競走、組体操(10人ピラミッド!)、リレー、ダンス
2種(沖縄民謡とバルーンを使ったダンス)のほか、葛飾音頭、おはロック。よくこれだけのものを
先生方も5・6歳児に調教したもんだ、と感心してしまった。と同時に、わが息子ながら、鼻が高
かった。本人が一番自信があったというリレーでは、真剣な表情して走る姿が見られて、感動して
しまった。とにかく速い、速い。誰に似たんだろ?

 と書くと、わが息子は天才的だと思う。ただの親ばかじゃんか。
いえいえ、こうなるまでには、並々ならぬ涙の出るような努力があったんだよ。

 10月に入ったある日のこと、運動会まであと2週間に迫ったころだ。
「ママ、僕悩みがあるんだ。」
6才の子供が悩みぃ〜???なになに???????
悩みというボキャブラリーにも驚いたが、それ以上に彼の悩みは根が深そうだ。真剣に話を
聞いてやらねば。
「僕ね、運動会のダンスがうまく踊れないんだよ。どうしよう。」
そうか、やっとやる気になったな。私は心の中でニヤリとした。

実は、将のやつときたら、おふざけしててダンスの練習をサボっていたのだ。おちゃらけて、いっつも
先生に叱られていたのだ。ダンスのときだけじゃない、組体操の時もまじめにやらなかった。
そう、将は運動神経もわりと良く、ちょっとやればまあまあ出来てしまうクチ。年中組さんまでは
そんなにがんばらなくてもほどほど出来てしまったのだ。
ところが!年長組さんのやることは、昨年に比べるとものすごく高度だ。真剣に取り組まないと
ダンスでもなかなか覚えられない。みんなみんな必死だ。とくに組体操は、技も難しいし、皆の
チームワークで初めて技が完成する物。
 おちゃらけている場合では無かったのだ!

 運動神経の良い将を、はじめ先生はかってくれていた。「将くんなら出来る」
だから、10人ピラミッドの土台の部分に推薦してもらえた。将も大切なポジションでうれしかったはずだ。
ところが、将はいつもの悪い癖がでた。おふざけだ。それでなくても、ピラミッドは小学生でも難しい。
土台がふざけたために、上に乗ったお友達が落ちたのだ。(;;)そりゃもう大騒ぎさ。幸いお友達はかすり
傷で済んだが、お友達のすごい泣き声。他のお友達は「将が悪いんだよ」「ちゃんとやんないからだよ」
「将じゃだめだよ、○ちゃんの方がいいよ」口々にそう言われた。先生はあえてこの時将を叱らなかった
そうだ。「将くん、先生に言われなくても、・・・わかるね?」バツが悪そうにしていた将、そうとうがっくり
きたはずだ。
 そんな事件もあってか、ダンスも相変わらずふざけてまじめにとりくまなかった。ふてくされか?
そういう暗い印象はなかったようだが、ようは、「ナメてかかっていた」んだろう。まったくふざけた奴だ。
そして、ある時、ダンスを踊ろうと思ったら・・・・踊れなかった。当たり前だ。
まわりのお友達はすでにマスターして、威勢良く掛け声を「エイサー!」とやっていた。棒立ちしていたの
は、もちろん将だけ。ただただ曲が終わるまで立っているしかなかったのだ。そうとうの屈辱だろう。

 そしてこのセリフを吐いた。「僕悩みがあるんだ」

 私:「どうすれば踊れると思う?」
 将:「踊りを練習する」
 私:「いままで、練習してたんでしょ?」
 将:「(首を横に振る)ううん。」
 私:「じゃあ、踊れるわけないね。他の子よりたくさん練習しないと。でも先生も運動会まで忙しそうだしね。
    (うちの子は朝早めの登園組なので)朝お友達に教わるのは、どう?×チャン、踊り上手なんだってね。」
 将:「うーん。(気乗りしない様子)」
 私:「じゃあ、早めに給食たべて、早めにお昼寝して、先生に10分早めに起こしてもらうのは?で、その時
   に練習するの。でも、普段の練習をまじめにやらない子に、先生は特別に教えてくれるかなあ?」
 将:「うん!僕がんばるよ!先生にお願いしてみる!!」

 わがままと知りつつ、先生に事情をお話した。先生は快く特別レッスンを引き受けてくれた。そしてこうつけ
加えた。「ようやく、将くん、やる気になりましたね。無理強いはしたくなかったので、しばらく黙っていましたけど、
運動会まで、あと少し、がんばりましょうね。」
 いつもならガミガミ言って運動会の練習をやらせてしまう私だが、今回ばかりは何も言わなかった。きっと
途中で気が付いて自分からすすんでやってくれるにちがいない、そう信じていた。まあときどき双子の妹たちに
「まどちゃん、はるちゃん、じょうずに踊れるんだってね〜」と娘たちを誉めつつ、将に「ゆさぶり」をかけたりも
したけれど(^^ゞ。いずれにせよ、自分で「練習する大切さ」を見つけてくれた。

 そして臨んだ本番。始まるまで母は不安だったが、まあちゃんと曲にあわせて踊っているじゃないの。
将もがんばった。先生もほんとうによくやってくださった。私は目頭が熱くなった。
「将ちゃん、やれば出来るじゃないの。」私はうれしくなって人目もはばからず、将を抱きしめた。力いっぱい。
「ね、ママ。ぼくかっこよかったでしょ?」
「一生懸命がんばって、いい事あったね。」
「うん!」

きっと、この子は「がんばるってことは、とても気持ちが良いこと」なんだ、と認識したはずだ。しかも身を持って。
親子とも学べたことが多かった、まさに実りの秋にふさわしい、素晴らしい運動会だった。


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ほーむ